・星座
人は死んだら、お星様になるんだよ
母はよく、そう言っていたから。
母が亡くなったその日から、夜空を見上げるのが習慣になった。
だから断じて、星が好きなわけじゃない。それどころか、星座、たるものは嫌いだった。
大熊だの白鳥だの、整然と整理された空には、母の星の居場所なんて存在しないようで。
公園の手すりにもたれて、ため息をついた。
「今夜は、星が綺麗ですか」
同じ空を見ている人の質問としては、すこしおかしい。振り返ると一人のおじいさんがにこにこ笑いながらこちらを見ていた。その手には、赤いシールのついた白い杖。視覚障害をもつ人が使うものだと、テレビで見た。こういうとき、どんな反応が正解なんだろう。
星が綺麗か否かなんて、もう随分考えたこともない。
「まあ…一般的には、綺麗なんじゃないですか」
なんて、反抗期を拗らせた中学生みたいな返答をしてしまった。おじいさんが、ほんの少しみじろく。
「それはよかった。私は随分と星空を見ていませんが、星は好きなんです。自由に線を入れるだけで、見えないものが見えるようになる感覚もね」
まあ、星座には疎いですが、とおじいさんは笑った。そんなものだろうか。もう一度、空を見上げてみる。無数の星が輝いていた。
「人も同じです。声をかけるだけで、その人を知ることができる。見えなかったものが、見えるようになるのですよ」
この人は、哲学者か何かだろうか。何が同じなのかもわからないし、論をこねくり回しているようで釈然としない。
でも。
白鳥や大熊にしか見えなかった星が、たしかに色を変えた。
10/6/2023, 10:46:05 AM