シシー

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 ゆっくりと、自分で首を絞めていくの


 心底愛しているだとか、誰よりも信頼しているとか、全然そういうものはない。むしろ何か特別な用事でもなければ関わりたくない人だ。
でも、私だけはこの人を理解して側にいなければいけないと思ってしまう。すごく嫌な人なのになんでだろう。

 手が上がったとき、冷静にその人自身を眺めてしまう。
表情、声音、話すテンポは基本で。手の高さ、開き具合、視線の先、口角。ちょっとした動作の一つ一つに楽しげな加虐心を探す。あんまり悠長にしていると痛いし、機嫌を損ねて意図せず加虐心をかき立ててしまうから素早くみて判断する。

 時折みせる弱さと、誰にも与えられなかった寄り添うという行為が忘れられない。どうしようもなく魅力的で手放すことができない。きっと私はこの人よりもこの人が与えてくれる対等な人間扱いが好きなんだ。
理解なんてしなくていい、だって今までずっと目を逸らされてきたのだから今さら何を言われたって届かない。


 ゆっくり、ゆっくりと、私は沈む


 ただバカにされてすり減るだけの日々より、多少の我慢と引き換えに求め続けたぬくもりをもらえる方がずっといい。どんなに狭い視野の中でも幸せというものは必ず映り込むのだ。過剰な自己防衛の末にようやく得られた安寧を他の誰にも邪魔させない。
 苦しさの先にあるものはハッピーエンドで間違いない。
少なくとも、私にとっては間違いない。間違いないの。

「…明日も、晴れるといいね」

 この人がみせてくれるものならなんだって、好きなの。



                 【題:風景】

4/12/2025, 1:26:16 PM