優越感、劣等感
「今劣等感に苛まれてるでしょ。」
開いている手元の難しそうな書に目を落としたままの君
白い病室内で1つ浮いている茶色の書はページさえも色褪せているように見える
「どうしてわかるの」
「顔に書いているから」
なんとも失礼な君は書を閉じてやっとこちらに目を向けた
「大丈夫。私はね、こう思うよ。
劣等感は、自分より優れている人がいると知れた証拠
あなたは自分の今の立ち位置をしることができたのね。
けどあなたがそんな顔をしているということは多分、相手は自分より劣っている人がいるとしれて今頃優越感に浸っているでしょうね。でも、きっとその人は、何も知ることはできていないわ。」
君の言葉は、包みこむような優しさと、全て知り尽くしているような怖さがあるんだ
だからいつもその言葉を忘れないように、何度も反芻する
「けれど、情けない。この程度なのかと知らしめられた」
「優越感に浸る人間ではなくて、そうね。自分より劣っている人がいたときに、その人に寄り添える人間になれたらいいのよ。
優劣をつけるのではなく、お互いの成長を願える人間に。
そうしたら君の世界はもう少し生きやすくなる」
「もし生きやすくなったら、その時は一緒に生きてくれる?」
ふふ、と笑みを零した君の表情は柔らかかった。
君の変わる表情はこの白い世界ではどんな色にもなり得た
「それは厳しいわ。だって私はあなたに対して劣等感を抱いているもの。」
前より少し生きやすくなった僕のいるこの世界から君がいなくなったのは
風が生暖かい7月のこと。
7/13/2024, 3:03:45 PM