「落ちていく」(創作)
「悪いんだけど、この書類明日までにまとめてくれるかな?」
目の前の顧客リストの山に、ため息をこぼした。自分の仕事が山ほど残っているのに、それは無い!!と、心の中では叫んでるのに、口からは気持ちと反対の言葉が出る。
「分かりました…」
自分は本当に真面目を絵に書いたような性格だと自負している。何か言われたら、相手の気持ちになってしまい、断ることが出来ない。
上手く立ち振る舞いながら、華麗に嫌なことをスルーしていく人たちを見ながら羨ましいとさえ思う。
1度でいいから、無理、出来ない、嫌ですって、拒否してみたい…
そんなことを思っていると、何に対してもやる気がわかずに逃げたくなる。
逃げたい気持ちのまま仕事を辞めても、このまま、自分の中のモヤモヤから脱出しなければ、どうなってしまうのかも分かっていた。
高校のバスケ部の部長を決める時、私は本当に上に立てるような人間ではなかったのに真面目だからという理由で、部長になった。
それでも言われたらちゃんとやりたいと思うから頑張るけれど、どうにも空回りで、挙句の果てに過呼吸を起こし救急車で運ばれたこともあった。
何十枚のコピー用紙がリズミカルに排出されていくのを、じっと眺めていると、コンコンとコピー機をノックする音が聞こえた。
「ブラジルまで落ちてる顔してるけど、大丈夫?」
顔を上げると、同じ部署の先輩だった。ここで私はまた、大丈夫って言うんだろうな、言わなきゃ心配かけちゃうし…どうしよう…
考えている間が待てなかったのか、先輩は、冗談ぽくガクンと肩を下ろして、ニッコリと笑った。
「大丈夫ではなさそうだね。ランチ一緒にどう?」
「はい。お願いします」
本心だった。この人に、勇気をだして打ち明けてみよう。
その勇気から、這い上がれるかもしれない。なにか始まるかもしれない…
直感でそう思った。
11/24/2024, 12:51:28 AM