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飛べない翼


 空を飛んだとして。
 後ろ指さされるなら、飛ばなくていいと思った。誰よりもいちばん高く飛べないなら、飛んでも意味ないと思った。飛ぼうとすることを、やめた。
 折角生えている翼も、普段から飛んでいないと衰えていくばかりで、存在すらなかったことになっていた。良い羽を持っているからよく飛べるなんていう方程式は、心の奥で腐っている。

 宙を舞ったとして。
 いつ落ちるか分からない世界なんだ。安定して舞踊り続けられるものはひと握りしか居ない。自分は、たっぷり人間が入れられた箱の、底の底にいる人間で、神様のひと握りに選ばれるわけがなかった。

 神がいた。
 私の目の前に、降臨してくださった。
 神は仰られた。
「ワタシのことを信じる者は、幸せになれる」
 神は全員に、平等な愛を注いでくださった。それは私も例外でなく、初めての愛に深く感動した。
 向き合ってくださって、私は初めて、羽を手入れすることにした。

 また、神がいた。
 私の目の前に、降臨してくださった。
 神は舞っていた。
 それは、空を舞っているのではなく、地に足つけて、舞踊っていた。
 誰も神を見ていなかった。でも、神は楽しそうだった。私は神の後ろを追った。
 背中を見せてくださって、私は初めて、自分の足で歩くことを知った。

 飛べたとして。
 神を信じていれば、いつか報われるという自信があった。神の教によると、自信が大切らしい。私はきっと、大丈夫になった。
 舞ったとして。
 浮く必要はない。選ばれる必要もない。楽しければ、それでいい。私はそうありたい。

 翼が全てではなかった。
 道を自分で切り拓くのも、一興であった。
 鳥籠は、自分で自分を閉じ込めていた。
 そこから出たとき、翼を広げた。

11/11/2024, 2:27:56 PM