薄墨

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前日の夜に熟睡できたためしがない。
遠足の前の日。受験の前の日。修学旅行の前の日…。
僕は、イブの夜にしっかり眠れたためしがないのだ。

そうして、今年のクリスマス・イブの夜も眠れないでいる。
すでに時刻は23:00。
サンタさんはもう仕事を始めているだろう。

布団の中で寝返りを打つ。
クリスマスの予定は特にない。
ツリーもリースもない無機質な一人暮らしの部屋で、それでも僕は、イブの夜に眠れない。

変な癖だが、なぜこうなったのか理由は分かってる。
僕のキンちゃんが死んだのが、僕の誕生日のイブの日だったからだ。

夏祭りで掬って、一年半も長生きした金魚のキンちゃんが浮いていたのは、僕が誕生日に満面の笑みで起きて来たあの日だった。

僕は泣かなかったし、嘆かなかった。
だって、もうキンちゃんの世話はもっぱら母さんの仕事になっていたから。

でも、僕はその日から、何かの日の前日は、一睡もできなくなった。
だから、その年から僕の枕元にプレゼントが置かれることはなくなり、代わりに同級生の誰よりも早く、サンタの正体を知ることになった。

そして、僕は今日もイブの夜を越す。
布団の中で、目を開いたまま、一人で。
今年のクリスマス・イブの夜も明けていく。

今年も黒い夜空に、月が光っていた。

12/25/2024, 9:57:15 AM