『子猫』
アパートの敷地に、時々白い子猫がいる。ここは動物禁止の建物なので誰かの飼い猫とは思えないが、徐々に大きくなっていく様子や、野良の割に毛艶が良い姿を見ると、誰かが隠れて世話をしているのは一目瞭然だった。
ある日の仕事帰り、アパートの駐車場に着くと隅の方に誰かがうずくまっているのが見えた。近づくと私の気配を感じておじさんが驚いて立ち上がった。足元にはあの白猫がエサを食べている。無言で猫を凝視している私におじさんは言い訳がましく「この前世話になったから…」と言って去って行った。
何を言っているのか。世話をしているのはあなたでしょう。少し怒りを感じなから眠りについた私は翌日、その意味を知ることになる。
朝7時、いつもの様に車に乗り込むと目の前に進路を塞ぐように白猫が座っているのが見えた。暫く待ったが猫は全く動く気配が無い。仕方がないので車から降りると、私は何かを踏みつけた。あ、財布だ!
私がそれを拾いあげるのを見届けると白猫は何処かへ行ってしまった。
『この前世話になって』
おじさんもきっとこの白猫に助けられたのだろう。
そして他の人達ももしかしたら。
私は帰りにキャットフードを買ってこようと心に決めた。
11/16/2024, 8:07:52 AM