Open App

秋色

――秋の色ってどんなだろう。
烏も鳴く下校中。道端に座り込み落ちていたどんぐりを拾いながら、僕は考えを張り巡らせる。
夕焼けの橙色、紅葉の赤色、お月見の黄色。
パッと思い浮かぶのはそれくらいかな、と僕は一度思考を終えた。色なんか、数え切れないほどある。
人によって秋の色っていうのは違う。誰かにとっての秋の色が、誰かにとって春の色な事もあるだろう。
だから結局、秋の色ってどんなだろう、なんて問いに答えは無いのだ。……そう、僕は隣の君に告げる。
そうかな、と若干納得していなさそうな君は、同じように座り込み僕が手に持つどんぐりを覗き込みながら言った。
「でも私達は、その答えを知っているんだよ」
その語り掛けるような口調が、なぜだか擽ったく感じる。手が滑ってどんぐりを落としそうになって、慌てて右手で握った。
答えを知らないから今こうやって考えているんだろう、と答えても君は何処吹く風。
「じゃあ答えを教えてよ」
「それは教えられない。だって、君はまだ探し出せていないから」
僕が聞くと君はそう言って、何も教えてはくれなかった。君はそっと垂れた髪を耳にかける。
いつもなら不満を小さく独りごちてしまうような場面で、今日の僕は微動だにしなかった。ただただ、顕になった君の耳に目線を奪われる。
微かに煌めいているピアス。アクセサリーをつける習慣のない君の耳に珍しい、一粒の美しい欠片。
視線に気が付いた君が笑う。恋人から貰ったの、と小さく零す。視界の端で何かの花が僕を嘲笑う。心が揺れる。
「また明日ね」
僕を置いて、君はそう言って立つと笑って駆けていった。突拍子の無い別れに人は直ぐには動けない。君が行った方向を意味もなく目で追う。
勢いがいいところも、幼馴染として隣で見てきた僕にとっては嫌になるくらい君らしかった。何度も見慣れた君の姿だった。
2人きりで見つめたどんぐりの茶色、切ない思いが渦巻くピアスの銀色、また明日ねって笑った君の頬に昔はのっていたはずの桃色。
自分なりの、自分だけの秋色に染まる今日。

9/19/2025, 2:37:13 PM