→短編・実家への道、ホタル族を思う
コンビニでタバコを買う。昔よりも高くてビビった。
高台から夜の街を望む。街の灯はぼんやりしている。
懐かしい景色。子供の頃の日常風景。坂の街。ここに登るまで前かがみになって自転車を転がした学生時代。足をつかずに登ったときの達成感が好きだった。今じゃ絶対できないだろうな。腹の肉に皮肉を言う。
再び坂を登り始める。霧のような雨が降る。傘をさすほどでもない。そもそも傘なんて持ってない。夜が少し白くなる。
目の前に大きなマンションが現れる、と思ったら、思ったよりも小さかった。記憶は記録ではない。思い出は補正される。
全戸に人が住んでいた。親父が街の明かりを肴にベランダでタバコを吹かして酒を飲んでた。そんな景色は遠い昔だ。しかし果たしてこれもどこまで正しいのか、永久に答えを得る機会はない。。
マンションの窓の灯、ポツポツと。歯抜けの黒い空間にはどんな奴らが住んでたっけな。
近頃オフクロがケアハウスの話をするようになった。それも悪くない選択だ。このマンションは高齢者には住みにくい。
いろんなものが、変わっていく。
マンションに入る前に背後を振り返る。霧雨が夜の街に仄かなフィルターをかけている。
なぁ、親父。墓にタバコを供えてやるけどよ、あの世のタバコ事情はどんな感じだ?
こっちじゃホタル族ってのはほとんど絶滅種だ。俺もずいぶんと前にタバコを止めたよ。
タバコ吸いが減って、街の明かりもちょっと変わったかもな、とそんなことを思った。
テーマ; 街の明かり
7/8/2024, 3:28:56 PM