〔ねぇ、今日も来たの?〕
岩場に隠れた、人気のない浜辺にのんびりと足を伸ばして座っているキミに、声を掛けた。
キミはパッと私の方を振り向いて、ニコッと笑う。
目元を緩ませ、何故か安心した笑みを浮かべたキミに、
私は呆れてしまう。
何故、この場所を知っているのだろうか。いつも思う。
〔今日は晴れだからまだ良いけど、明日は雨だってさ。
どうするの、キミ。〕
すると、キミは当たり前の様に、
「来るよ。絶対に。」
そう言って笑って見せた。
私は、
〔···ねぇ、何でキミは諦めないの?辛くないの?〕
キツい言い方をしてしまう。
だって、私は。
「だって、待つことしか出来ないから。
あの子は、絶対に約束を破ったりしない。」
キミは少し泣きそうな顔をして、海を見て、そう呟いた。
「あの子とこの海に、約束した。
また二人で一緒に、どんな日も、この海を眺めようって
笑い合った日も、喧嘩した日も。」
震えた声で言う、キミのそんな顔に、声に、
止まった筈の心臓がチクチクとする。
〔それさ、幼少期の約束でしょ?キミの言うその子は、
ずっと前に、忘れているんじゃないの?〕
私は、冷たく言い放つ。
お願いだから、その約束にずっと縛られないでほしい。
私もずっと、ここに居ないといけないじゃないか。
「でも、来てくれてるじゃん。こうやってさ。
姿は見えないけれど、声は聴こえる。
もう、それだけで、十分だよ。」
私の方を向いて、また笑った。けれども、涙が溢れている。
だから、忘れてほしかったんだ。そんな約束なんて。
もう触れないキミの顔に手を当て、涙を指で掬う。
でも、その涙の滴は、私ではもう救えない。
8/23/2023, 10:41:59 AM