霜月 朔(創作)

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冬休み




寒空の下で、
街は何時になく、忙しなくて、
行き交う人々の影さえ、
早足になる。

子供たちの声が通りに響く、
年末の帰り道。
家族の温もりに胸を踊らせる、
そんな光景は、
遠い世界の物語のようだ。

幼い俺には、
そんな夢は無く。
冬休みの静寂だけが
冷たく広がっていた。

金もなく、家族の愛もなく。
空腹と寒さに耐えながら
暖炉の火もない冷たい部屋で、
独り、膝を抱えていた。
孤独だけが、俺の隣に居た。

年末年始の飾りを纏った、
何処か華やかな明かりが、
俺の影を長くする。
賑わう街が見せるのは、
得られなかった過去の幻影。

だから俺は、
年が暮れようと、年が変わろうと、
変わらぬ日々の中に、
身と心を沈める。

遠くから聴こえてくる、
楽しげな声に、耳を塞ぎ、
年が暮れようと、明けようと、
機械仕掛けの人形の様に、
ただ、静かに働き続ける。

冬の風が吹き抜け、
哀しげな虎落笛が鳴る。
孤独の中、冷たい静寂が揺蕩う。
冷たく止まった時の中、
砕け散った、硝子細工の時計の様に、
俺は、自分だけの時を生きる。


12/29/2024, 9:12:54 AM