「………………」
「………………」
かれこれ十分、二人は見つめあったまま。
一言も発さず、呼吸さえ忘れたかのように。
睦言を囁きあっているのならまだ分かる。
人目もはばからずイチャつくバカップルとして断罪しよう。
喧嘩をしているならまだ分かる。
メンチを切り合い一触即発な雰囲気を打破し引き離そう。
が、
ただただ無言で見つめあっているのである。
周囲もどうしたものかと動けず、異様な空気のまま、今十三分が経った。
もう限界だ。
片方のツレが思い切って声をかけた。
「ちょっと」
彼の人生で一番嫌な「ちょっと」であったという。
その「ちょっと」で、二人は拍子抜けなほどあっさり視線を外し、距離を取った。
そうして、一言も交わさないまま各々の群れへと帰り、何も無かったかのように振る舞いはじめる。
さすがにそのままスルーも出来ず、お互いのすぐ隣の人間がごく当たり前のことを聞く。
「何をしていたんだ」
二人は同じように答えた。
「自分がどう映ってるかを見てた。手遅れだった」
#君の目を見つめると
4/6/2023, 1:05:16 PM