微熱
ピピッと無機質な電子音が、私の左脇に挟んだ体温計から聞こえてきた。
「熱どうだ?」
「……37.5℃」
「微熱だな」
「ギリギリセーフですー! 平熱高いもん!」
「うちの事務所ではアウトですー」
下宿先の大家兼私のアルバイト先の所長によって、強制的にベッドに寝かせられた。
「別にいいじゃん。人に会わない雑務こなせばうつすリスクないでしょ」
「あのな、微熱はこれから熱が上がるって兆候だぞ。早急に寝ろ!」
なにもこんな時に限って急に保護者ヅラしなくても良くない?
「当たり前だろ。お前の両親からお前を預かってんだ、そりゃ面倒も看る」
「家賃かかってるもんね」
「おーおー捻くれお嬢様はさっさと寝ちまえ」
いや、でもまだ微熱だし。本当に熱上がるかわかんないし−−と反論しようとしたら、所長が部屋を出て行ってしまった。本気で「寝ろ」ってことじゃん。そう思ってスマホに手を伸ばし、弟と後輩も集まっているトークルームを開く。
「微熱でバイト出勤させてくれない」
「当たり前だろ。俺らにうつすな」
「お大事に。首にネギ巻くといいって聞いた」
お、おう……。おかしいのは私のほうか。後輩、あなたいったいどこからその知識を得たの?
しょうがない。今日は大人しくしようか。
掛け布団を引き上げて本格的に寝ようとしたら、うとうとしてきたタイミングで所長が部屋に入ってきた。せめてノックしてから来て?
「……なんでネギ持ってんの」
「安心しろ。今日の添い寝担当だ」
いや、臭くて寝れんわ。嫌がらせじゃんかよ。
(いつもの3人シリーズ)
11/26/2024, 2:37:32 PM