小説
迅嵐※高校生、付き合ってる
「……詰んだ…」
後ろの席からそんな小さな呟き声と、ガタッと少し大きな音が聞こえた。
振り返ると、机に突っ伏したまま微動だにしない者がいた。
「視えてなかったのか?迅」
ついさっき行われた抜き打ちの実力テスト。しかも今回のテストは成績に大きく関わっている。予知のサイドエフェクトを持つ迅が視逃すのは珍しい。
「視えてたよ、……視えてたんだけど…まさか実力テストの教科と違う先生が来るとは……」
「あぁ…」
今日行った実力テストは数学。しかし数学の先生が急遽用事が出来たとかで、代わりに来たのは英語の先生だった。
「…………文法完璧にしてきたのに……」
予知の中にいた英語の先生を信じきり、本当に英語は完璧にしてきたのだろう。だが期待を裏切られ、数学のテストを前に為す術なく項垂れたらしい。
俺はそんな迅が可哀想に思えて、どう慰めてやろうかと少し悩む。
「…迅、視えている成績はどんな感じだ?」
「……五分五分かな。ギリ赤点回避する未来とギリ赤点の未来が混在してやがる。…こんなスリル味わいたくない……」
「そうか…。よし!」
ぱしんと太腿を叩き、俺は笑みを浮かべながら迅を見据える。音に驚きこちらを向いた迅に満足した俺は、誰にも聞こえないように、誰にも聞かせないように小さく囁いた。
「赤点だったら慰めにキスをしてやろう」
「な゙っ……!?」
「どこにでもしてやるぞ?」
「ぇ゙えっ!?」
迅はどこから声を出しているのか疑問に思うような素っ頓狂な声を上げ、椅子と共に後退る。
いつも思うが、そろそろキスくらい慣れて欲しい。もう両手で足りない程、何度もしたと言うのに。こっちまで恥ずかしくなってくるじゃないか。
「えっ……なっ……!…………あっ」
「?どうした?」
「……………………赤点、回避しちゃった……」
迅の百面相を見ながら、俺は堪えきれず盛大に笑ってしまったのだった。
11/12/2024, 12:21:13 PM