しずく

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「またね」
 先輩はそう言って儚げに笑ってみせたんだ。


 桜を見上げていたらぶわっと一瞬にして鮮明に流れ込んできた記憶に目を細める。
 …先輩、今年も会いに来ましたよ。
 俺ね、先輩。
 先輩はもうどこにもいないって事実を突きつけられても不思議と涙が出てくることはなかったんです。
 あんなに先輩の前だとぴぎゃんぴぎゃん泣いてたのに。
 いざその時になるとびっくりするほど涙出なくて、自分がわけわかんなくて、一時期めっちゃぐちゃぐちゃだったんですよ。
 …あ、待って。今のなし。
 俺がぐちゃぐちゃだったって知られたら怒られそう。
 ちゃんと寝てはいたから、許して。
 え?ご飯もちゃんと食べろって?あはは、ごめんなさーい。
 …って、そうじゃなくて。
 やっと分かったんです。
 なんで俺が泣けなかったのか。
 多分俺、先輩がどこにもいないっていう事実を上手に受け止めきれてなかったんです。
 この前、いろいろなことがあって無意識に先輩を探してる自分に気づきました。
 そしたらこの前やっと受け入れたみたいで、泣いちゃって。それはもうぐちょぐちょに。
 そう言われれば、ちょっと声掠れてるって?ごめんなさい、そのせいです。

 
 桜舞う、先輩のお墓の前、どれくらいそうしていただろう。
 目を開けるとかなり時間が経っていたようだった。 


 ふわり。桜が舞う。
「じゃあ…またね、せんぱい」
 春風が冷たい雫を一筋、俺の頬から攫っていった。


またね! 春風とともに 涙 #202

3/31/2025, 6:16:13 PM