一年後
「一年後もバレンタインちょうだいね。」
「......当たり前。」
俺たちのバレンタインは普通とはちょっと違う。
男の方がチョコを作って女の方がチョコをもら
うのだ。
もともとはお前がメシマズで、チョコも作らせた
らやばかったっていうところから始まったけど、
なんだかんだで毎年幸せなバレンタインデー
になってる。
でも今年は違った。
一月の半ばぐらいからお前からタバコの匂いがす
るようになって、一週間後にはいつも薬局とかで
売ってる物を使ってるお前が知らないお高めの化
粧品使ってたり、バレンタイン前になるとお前の
家のキッチンからチョコの匂いがして、ゴミ箱は
チョコ作ったんだなと一目見てわかるようになっ
てた。
お前がこう言うの隠すの苦手だったのは付き合い
はじめた頃から知ってた。サプライズとかめちゃ
めちゃ下手だったもんな。
隠すのが苦手って言うのが変わらないのは少し、
愛らしく思えた。
一年後のバレンタインもお前のためにチョコ作
って、それにお前がいつもみたいにちょっと苦い
とか、硬すぎるとかケチつけてくれる物だと思っ
てた。
でもそれも今年で終わりかもしれない。
一年後には、いや今もそうか、誰か違う男にお前
がチョコを渡してるんだな。
めっちゃ不格好で何入れたらそんな不味くなるん
だってぐらい不味い、お前の愛しいチョコを。
輝くネオンの下を通って帰路に着くお前の後ろ姿
を見て思う。
変わったなって。
5/8/2024, 12:05:11 PM