いぐあな

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300字小説

月夜の祭り

『わっしょい! わっしょい!』
 満月の下をねじり鉢巻に半纏姿の子供達の担ぐ神輿がねり歩いていく。
 青白い月光にキラキラと光る神輿の飾りは、この道の先、とうに宮司も居なくなり、うち寂れた神社に奉納されたものだ。
 神輿の後ろには、まだ担ぐには幼い子供達が列をつくって着いていく。彼等の洗いざらい、首元のよれた半袖のシャツ姿は昭和以前を感じさせるものだった。
 今は年寄りばかり、人の住んでいる家も少なくなった、この村も昔は山仕事で栄え、山神を祀る祭りは毎年大勢の氏子が集まって、賑やかに開催されていたという。
「こんな月の明るい晩は神様も昔が懐かしくなるんやろ」
 幻の祭りの行列は寂しくも賑やかに山の方へと消えていった。

お題「半袖」

5/28/2024, 12:11:15 PM