お祭り
「おい見ろよ、あの提灯。まるで百鬼夜行だな」
暗い中にぼんやり整列する灯りの中を、人間たちが行ったり来たり。何が楽しいのか、皆一様に浮かれた顔だ。
「ええ、おっしゃる通りで。しかし、人間の奴ら、この祭りの意味を分かっているのか?この祭りは豊穣の神たるあなた様に感謝を捧げる祭りだというのに」
三つ目のお供は不満げだ。
「あっはっは!かまわねえよ!人間ってのはそういうもんだ!絶えず、目まぐるしく、変化するもんさ」
「はあ、ヤライ様は本当に人間がお好きですね」
三つ目と山道を歩いていると、泣き声が聞こえる。
「やや、あれは人間の子供ですか。何かの弾みで我らの世界に入ってしまったのでしょうなあ」
「そうみてえだな。しょうがねえ、帰してやるか。……おい坊主!帰してやるよ、ついて来い!」
子供はきょとんとした顔をした後、黙ってついてくる。俺が人間に近い容姿をしているからか、正常な判断ができないからか、そいつは小鴨のように俺の後ろを歩く。
「なあ坊主、話をしないか?」
人間の世界に送り届けるまでの間、そいつは色々話してくれた。友達、学校、家族。時々相槌を打ってやれば、そいつは目を輝かせて饒舌になった。
「この先だ。振り返るなよ」
藪の向こう、歪む視界の真ん中で、人間が何かを探している。
「パパ!ママ!」
そいつは脇目も振らずに駆け出し、両親に抱きついた。こうして彼は、人間の祭りに帰っていった。
あれから時が経ち、我々の住む山に人間の手が入り始めた。奴らは木を切り倒し、穴を掘り、山を変えていった。
「ヤライ様、この土地はもう……」
「ああ。祭りはやらなくなった。人もいなくなった。我々の住処もなくなるか……。昨今の人間は自然さえ克服した。豊穣の神はもう、必要ないだろう」
「ヤライ様……」
「そんな顔すんなよ。いいさ、俺たちはもう……」
視界の端、年老いた人間が、他の人間に何かを訴えかけている。「この山には神様が……」と。どこか見覚えのある彼を背に、我々はゆっくりと森の空気に溶けていった。
7/28/2024, 11:45:07 PM