「大好き」って、人を幸せにするわね。
「ミナミさん!」
「ん?どうしたの?」
「ファキュラ、ミナミさんが、だいすきです!」
「ありがとう。私もファキュラのこと大好きよ。」
「えへへ。」
ファキュラは嬉しそうに笑うと、また、お絵かき帳に向き直す。画用紙の上には、ファキュラとニシと私。……多分。愛玩用の魔物のファキュラには、幼児並の能力しか無いらしく、毎日のように絵をたくさん描いても、あまり上達はしていない。それでも、最初の頃よりは、上手になった。自分の顔の上に、猫の耳を付けるのを忘れなくなったし、髪の毛の色と長さで、人を分けて描けるようになった。
「おや、ファキュラは、お絵描き中かい?」
「シショーだ!こんにちは!」
「はい。こんにちは。」
同じ家に済むガク師匠が書斎から出てくる。
「ガク、お茶でも飲む?」
「ああ。じゃあ、貰おうかな。」
「ファキュラも、休憩しようか。」
「はいっ!」
お茶を入れるべく、キッチンに向かう。ヤカンを火にかけて、ポットに茶葉を入れる。まぁ、茶葉さえあれば、お湯は一瞬で作れるんだけど。私は、お湯を待つ、この時間も好きだ。
「ミナミさん、て、あらいたいです。」
「おいで。洗面所行こうか。」
「はい!」
「ガク、お湯見といて!」
「はいよ〜。」
リビングから、ガク師匠の間伸びた声が聞こえる。ファキュラの背を押して、洗面所に向かう。背後でカチっと火の消える音がしたけど?ミナミが戻ってくる頃を見計らって、魔法でお湯を沸かす気なんだろう。まったく。
洗面所で、ファキュラを魔法でちょっと持ち上げる。これで、ファキュラ自身で、手が洗えるようになる。踏み台の代わり。手にハンドソープを出してやると、ファキュラは小さな手を合わせて、洗っていく。
「ファキュラ、爪を出せる?」
「はい!」
ぴょこっと出てきた爪を洗ってやる。クレヨンの色で、カラフルになっていた爪も、ピカピカになる。
「はい。流して。」
「ありがとうございます!」
「どういたしまして。」
石鹸を流し終わったファキュラを床に下ろし、手先を風魔法で乾かす。タオルで拭いて貰おうと思ったら、爪が引っかかって、タオルがボロボロになってしまった事があった。まぁ、ニシは気にせず、拭かせているようだけど。
ピカピカになった手を、嬉しそうに眺めているファキュラを連れて、キッチンに戻ると、ちょうどお湯が湧く。
「ガク、ありがとう。」
「ああ。」
「ファキュラも、向こうで待ってて。」
「はい!」
ファキュラがタタタっと、リビングへ走っていく。ポットへお湯を注いだ。
「シショー、あのね!」
「ん?」
「シショーも、だいすき!」
「ありがとう。私もファキュラが好きだよ。」
「だいすき?」
「ああ。大好き。」
「うふふ。」
最近のファキュラは、「大好き」が、ブームみたい。彼が一緒に暮らしている弟弟子のニシは、素直に「大好き」を返してくれないらしく、落ち込んでいたけど。
「さぁ、お茶が入ったわよ。ファキュラは、りんごジュースね。」
「わー!ファキュラ、りんごジュース、だいすき!」
ニコニコと満面の笑みを浮かべるファキュラ。こんなに可愛い魔物を見た事が無い。ほんとに可愛い。大好き!
3/19/2025, 5:31:36 AM