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 「俺の故郷の空は灰色が多いんだ」
 雪が深く積もり流れる水さえ凍ってしまう、冬を切り取って閉じ込めた国。親しみを込めて呼ぶ彼の故郷の空は灰色らしい。

「ちゃんとした青空もあるでしょ?」
「もちろん、見たことない訳じゃない。晴れた日だって…。そんな日は弟たちと外を駆け回って遊んだな」

 雪雲が層のように厚く、灰色が濃くなったり薄づいたり天気を読んで暮らしていた。だから目は灰の空に慣れていて見るたびに家族のいる故郷を思ってしまう、と。
 ベンチに2人腰かけながら『沈む夕日』を眺めている。話題となっていた彼の言う灰色はどこにもなく、青空にピンク色の靄がかかって薄い紫色をしている。夕日を起点にして、グラデーションが始まってまるで薄いベールを被っているみたいだった。白い雲には夕日のオレンジ色が乗って色んな色が空に広がって不思議な感じ。夕日は海にゆっくりと溶けていく。あぁ、終わっちゃう。次の日も見られるけどつい物悲しくなってしまう。

「…ここじゃ数分で終わってしまうけど、俺の故郷では数日続くよ」
「こんな幻想的な景色が?一日中?」
 何でも白夜といって太陽が沈まないのだとか。初めて聞いた魔法みたいな話だ。

「灰色とこの瞬間が俺の慣れ親しんだ空なんだ。前よりずっと愛しさを覚えるのは君がいて、世界が鮮やかに見えるからかな。君はどう?」

 覗き込まれて、まだ沈まないでと願うのは夕日のせいだと言いたいから。早く沈んでと願うのも夜の暗がりに紛れてしまえば気付かれないと思うから。つくづく彼の言葉に舞い上がってしまう私は単純で、恥ずかしさを誤魔化す言い訳は今、用意した。「あなたの夕日に似た髪色が移ったの」と。

4/8/2023, 9:24:15 AM