『懐かしく思うこと』
眼前で目に涙を溜めている貴鬼を見て、私は自分の幼い頃を思い出した。
師からサイコキネシスの課題を出されたが、なかなか上手くいかなかった。もどかしい思いは焦りと情けなさを生み、今の貴鬼と同じように悔しくて泣いたものだった。
あの時、涙をぐっと堪えながらも強く拳を握り締めていた私に、師は何と言っただろうか。思い出しながら、それをそのまま口に出す。
「最初から完璧にこなそうとする必要はありません。焦らず、一つ一つ、ゆっくりと確実に進めなさい」
私の言葉に貴鬼はハッと顔を上げ、こちらを見た。私は微笑み、頷いてやる。「はい!」と元気な返事をすると、再び集中を始めた。その姿に私は目を細めた。私の幼い頃そっくりだ。私の師も、まるで父のように私のことを見てくれていた。
私は懐かしみ、昔の師の顔を思い出す。二百年以上を生きてその顔には深い皺が刻まれており、同じく眉間にも皺が刻まれ――あれ?
思っていたイメージと違い、私は首を捻りよく思い出す。
――そうだ、我が師は最初こそ優しく声を掛けていたが、あまりに私が何度も失敗すると最終的には苛立って「うろたえるな小僧!」と私のことを吹っ飛ばしていた。あの人に吹っ飛ばされた回数など、両手両足を使っても数え切れない。本当にあの人は見た目よりも短気で――
「うわーん! ごめんなさいムウ樣! オイラもっと頑張るからそんなに怖い顔しないでください!」
気が付くと、貴鬼が私の顔を見て泣き出していた。どうやら自分でも知らぬ間に怖い顔をしていたようだった。私は慌てて貴鬼の頭を撫でてやった。
10/31/2023, 12:06:02 AM