無音

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【1,お題:嵐が来ようとも】

「たとえ、嵐が来ようとも。どんな困難が降りかかろうとも僕は貴方を守り、絶対に幸せにします。」

2ヶ月前、結構式でそう誓ってくれた彼は、たった昨日知らない子供を助けようとして車に跳ねられ亡くなった。

彼は正義感が強い人だった。困っている人をほっておけず、どんな相手でも無条件に手を貸してしまう人だった。
そのせいで、面倒ごとに巻き込まれても「相手だって人間だもん、仕方ないって」と、けろりと笑える人だった。

私とは違う。人を羨んでばっかりで変わろうともしない私とは
人に手を貸すどころか一目見るだけで「可哀想だな」なんて、思ってない偽善を吐く私とは

今だって子供を助けて亡くなった彼に、心のなかで「何で?」を続けている。

「何で先に死んじゃったの?」
「絶対に幸せにしてくれるんじゃなかったの?」
「何で私よりあの子供を優先したの?」

あぁ、私って最低な人間だ。あの子供はなにも悪くないのに嫉妬をするなんて

頭で分かってはいるのに、考えるのをやめられない「何で?」「どうして?」がへばり付いて離れない。

「もしあの子が居なかったら」

彼はまだ隣に居てくれてたのだろうか

「もしあの子が道路に飛び出したりしなければ」

彼は死なずにすんだのだろうか

何気なく開いたスマホで、何となく天気予報を検索した。
台風が接近してるようで、今夜は嵐になるようだ

「...最悪」

もう、嵐が来ても守ると誓ってくれた彼は居ない
絶対幸せにすると言ってくれた彼は居ない

どんよりと曇りだした空にため息一つ吐いて私は誰も待っていない家へと帰った。

7/29/2023, 12:15:35 PM