「逆光」
「わーっははは!どうだ!参ったか!」
ここは海岸。沈みゆく夕陽を背に、彼女は俺の前に仁王立ちしている。
「あぁ、参ったよ。降参だ」
「……毎度の事だけど、本当にそう思ってるのかぁ?」
「思ってるよ。そんな後光を背負ったお前に、カッコ良さで勝てるビジョンが見えない」
そう、俺たちは今【どれだけかっこいいシチュエーションで相手を圧倒するか】というよくわからない勝負をしている。
なんでこの勝負がはじまったのかも覚えてないが、彼女と帰る放課後には必ずこの勝負をしている。
ちなみに、勝者はいつだって彼女だけだ。
……俺は彼女に勝つ気がそもそもない。
理由は単純で、俺が彼女に負けを認めさせてしまったら、この夢が醒めてしまうからだ。
彼女はもう現実には居ない。まばゆい光に包まれて、消え去ってしまったから。
……さながら今のような逆光に照らされて。
ふと、強い風が俺たちの間を吹き抜ける。思わず自分の【長い髪】を抑えた。
時刻は夜。冷たく美しい満月が俺を照らす。
彼女からみればそれは逆光構図で……
「かっこいい……!やっぱり、1番かっこいい【女の子】選手権はアンタの勝ちだよ!」
瞳をぱぁぁぁっと輝かせる彼女。
「な、まっ、待ってくれ!?」
それを認めちゃ駄目だ。俺はかっこよくなんて無いんだ……!
「だからさ、もう、ここから歩き出して欲しい!あたしが認めたクールガールなんだから!」
今までで1番の笑顔を見せて、彼女は光の粒子となって空に舞い上がっていった……
1/24/2024, 1:32:26 PM