香草

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初めてのクリスマスプレゼントでもらった着せ替え人形。大きな目、外国のお姫様みたいな髪の毛。私の母性が芽生えた瞬間だった。
毎日ご飯を作って、服を着替えさせて、寝かしつけた。私の子供は天才で可愛くて、なんでも素直に言うことを聞く良い子だった。
「この家にはまるでママが2人いるみたいだなあ」
「ママがもう一人いて助かるわあ」
両親はそんな私を見て微笑む。私も本物に認められるほどの一人前のママなのだと誇らしくなった。

それから20年後、私は本物のママになった。待ちに待った赤ちゃん。
人形とは似ても似つかない皺だらけの生物。だけど可愛かった。クリクリした目もブロンドヘアーも持ってないけど。
本物の赤ちゃん大切に育てていこう。

机から水がしたたる。その様子が初めて水泳教室に行った娘の涙を思い起こさせた。
割れたガラス。小学生の娘が買って来てくれた修学旅行のガラス細工のお土産を思い出させる。どこにおいたっけ。
隣の家の電気がつく。深夜の塾の前で佇む娘も光に照らされていた。表情はいつも見えなかった。
ピコン、とスマホにニュースの通知。勉強に集中させたくて取り上げた時に見てしまった「母親クソだね 毒親じゃん」の文字。
ずっと娘のことを考えて生きてきた。私に似て取り柄もなくて不器用な娘に、私みたいな人生を歩ませないように大切に育ててきたつもりだった。
「私はママの人形じゃないの!」
耳の奥でこだまする。たくさんの愛情を注いでいたつもりだったのに。
そんなこと言うなんて私の子供じゃない。

11/27/2024, 11:34:24 AM