『さぁ冒険だ』
「冒険が始まる!」
そんな眼差しでこの子は私を見あげた。
「さあ征こう!」
大地は雪に覆われて、風は冷たい。
だがこの子の心はそんなことでは挫けない。
そして私も挫けている場合ではない。
雪が何だ、厳寒が何だ。
私はこの子を導かねばならない!
と、盛り上がれれば互いに幸せなんだろう。
雪とこの子の輝く眼を見比べて。
仕方ないなぁ……と私は炬燵を出た。
冒険! 冒険!
無邪気に跳ねる子にリードをつけた。
玄関をあけて、まだ誰の足跡も刻まれない新雪に記念の第一歩を……。
踏み出して、引っ込めた。
この子は再び私を見あげた。
物云えぬこの子の眼は雄弁に語る。
(寒いよ?)
そりゃ寒いだろうよ。
(帰ろか)
………。
まだ敷地からも出ていない。どころか玄関先に可愛らしい足跡ひとつ落としただけなのに?
言葉にしなかったが、心のなかで私はつっこむ。
(だって寒いよ?)
可愛らしく小首をかしげて。
柴の姫の冒険はここで終わった……。
次回! 柴の姫は炬燵の魔性に囚われる!
みんな、見てくれよな!
2/25/2025, 11:18:15 AM