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もしも世界が終わるなら




定められた滅びを迎えるなら、何も知らないままの方がいい。政府はそう決めたらしい。

あと数時間後に堕ちる隕石で眼前に広がる世界全てが地獄になると言うのに恐ろしい程に世界は変わらないままだった。明日が変わらず訪れると疑いもしないまなこで見る世界と、終わりを知る眼鏡をかけた目で見る世界は同じものはずなのに。

政府の高官と一部の民間人は既にシェルターに逃げ込んだという。
なんて理不尽で、なんて愚かなのかと嘆いても結果はなにも変わらない。最善なのだ、滅びの決まった世界では。

耳元でお湯が沸いた事を知らせるベルが鳴る。

いつものようにお湯を注いで同じコーヒーを作る。
少し焦げたパンと半熟の卵が朝食のルーティンだった。
一つだけいつもと変わっているのはカップを持つ手が震えていることだろうか。

カーテンを開けて窓の外を眺めると
いつもと変わらない雲ひとつ見えない青空が広がる。

夢の中のようだ。
夢を見ているようだ。
夢であればいいのにと思う。


震えが止まらぬ滅びを待つ手が空のカップを洗う頃、
目の前に何が広がるのかを知りながら
夢も現実も拒絶するように男はそっと、
窓の光から逃げ出した。





みたいな手塚治虫作品のタイトルが思い出せない

9/19/2025, 4:18:52 AM