鷹見津

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最初から決まってた

「いつからこうなるって分かってたんですか?」
 目の前で微笑む先輩に俺は問う。先輩は立ち上がって、俺のそばに立った。
「最初からだよ。僕の後輩くん。これからよろしくね」

 高校生になったら、どんな部活に入ろうかと入学前から楽しみにしていた。運動部も盛んではあるし、それ以外の部も楽しそうだった。それなのに。
「どうして俺はこんな所に」
 思わず呟いてしまったのは、仕方のないことだろう。馬鹿みたいに狭い部屋にぎゅうぎゅうと詰め込められたのは新入生たちだった。
「だって、勧誘してきた先輩がすごい綺麗だったんだぜ? お近付きになりたいだろ」
「俺は今日は野球部かサッカー部の見学に行きたかったんだけど」
「そう言うなって。お前も絶対来て良かったって思うからさ。良い友人に感謝しろよ」
 狭い部屋の前方には大きくオカルト部歓迎と書かれていた。こんな部活、部活紹介の時にあっただろうか?
 かつん、と音が鳴り誰かが入ってきたのが分かった。そちらを見やれば、セーラー服を着た黒く長い髪を持つ生徒がいる。
「今回は集まってくれてありがとう、諸君」
 友人に服を引かれ、あれが例の先輩かと思う。確かに目を引く姿だった。
「このオカルト部に入部したいと考えてくれる新入生がこんなにいるなんて、先代の部長が聞いたら泣いて喜んでくれるだろう」
 にこりと笑う表情に集まった新入生たちのテンションが上がるのが分かった。狭い部屋が暑くてたまらない。早く出たいなと思わないことも無かったが、オカルト話は嫌いな訳でもない。とりあえず、話を聞くぐらいなら良いだろう。
「……しかし、我がオカルト部はこの通り狭くてね。入部出来る人数は決まっているんだ」
 残念なことにね、と言いながら先輩がウィンクをしてみせた。
「そういう訳で、入部試験を行うことにしたんだ。内容は簡単。君たちはただ、肝試しをしてくれたらいい」
 高校生になって肝試し。ちょっと面倒だなと思っていると先輩が言葉を続ける。
「肝試し会場は、この学園の地下だ。ああ、安全面は確認済だから安心してくれ」
「地下?」
 思わず、声に出してしまった。先輩がぱっと俺に視線を向けた。
「何か疑問でも?」
 周りからの視線が痛い。だが、黙りこくるのも印象が悪いだろう。
「……この学園に地下は無かったと記憶してるのですが」
「学園は広いよ? 君が知らなかったんじゃないかな」
 俺は首を横に振る。
「少なくとも外部に公開されている地図には書かれていませんでした。図書館で確認出来る校内図にもありません」
 先輩が、先ほどまで浮かべていた笑みとは違う種類の笑みを浮かべる。
「……そう。入学してから日が浅いのに良い心がけだ。公開されている地図に無いのも当然のことなんだよ。だって、僕が去年見つけたやつだからね。まだ地図が追いついてないんだ」
 ぱちぱちと瞬きをした俺から目を逸らした先輩が、肝試しの説明を続ける。見つけたってどういうことだろう。この学園は歴史が古い。隠された地下があるのも納得は出来るが、それを個人で見つけたのか? 今まで誰も見つけられなかったのに? それは、それって。
 ――すごく楽しそうだ。
 そう思ったのが運の尽きだったのかもしれない。先輩の地下の肝試し大会で、唯一最後まで辿り着いてしまった俺は、これから人生の中で最も濃く危険な高校一年間を過ごすことになる。先輩に文句を言った所、最初から好奇心旺盛で知識欲も豊富だったんだから僕のせいじゃなくて君が決めたんだよと、返されて何も言い返せせなかったのだけれども。

8/8/2023, 1:33:35 AM