与太ガラス

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 ナオと知り合った日に、次にジムに来る予定を聞いた。私はその日に合わせてジムに来て、ナオの隣で筋トレをすることにした。

「えーすごい! もうそんなに重いのでやれるんだ」

 ナオのチェストプレスの重さを見て大きい声を出してしまった。

「やめてよ。こんなの全然重くないって」

 ナオは謙遜する。そっか、他にもたくさん人がいるし、恥ずかしいよね。

「それにチェストプレスは割とすぐ上げられるようになると思う。他のマシンと比べても辛くないイメージだよ」

「へー、じゃあコレからがんばってみようかな」

 もともと初心者向けのジムではあるけど、ナオは通って2ヶ月程度で、私からしたらちょっとだけ先輩だ。そういう人の実感レポートは差が大きくない分、頼りになる。初日に諦めかけていた私には絶好のお手本だった。

 一番少ない重りをセットしてシートに腰掛け、持ち手に手を添えて力を入れる。……動かない。

「肘の位置が低いね。肘は持ち手と平行になる位置まで上げよう」

 ナオが声をかけてくれた。私の肘は持ち手にぶら下がるようになっていた。

「あ、そうなんだ」

 ナオは隣で同じマシンに乗って、やり方を見せてくれた。

「おー、わかりやすい! こうね!」

 私はその通りにやってみた。お、お、おー!

「できたできた! 動いたよ!」

 さっきまでびくともしなかったバーが動いた。

「これをまずは15回」

 15回がワンセットというのがトレーニングの基本らしい。1回動いたとはいえ、できる気がしない。

「ホントにできるの?」

 やるのは自分なのに、ナオに向かって疑問形で投げかけてしまった。

「できるできる。自分を信じて」

 ナオの言い方は穏やかで強くない。その言葉はストレートに入ってきた。私は必死になってバーに力を込めた。いーち、にーい、さーん……

 隣ではナオが同じペースでバーを動かしている。だんだんとバーが重たくなっていく。じゅうさん、……じゅうよん、……じゅう……ご!

「だは〜! 疲れた!」

「すごい。カナデよくがんばったね」

 ナオが小さく拍手をしている。わー嬉しい!

「えへへ、できた。ありがとう」

「じゃあこれをあと2回。合計3セットだ」

「それはムリだよー!」

 ナオはケラケラと笑っている。

「ゆっくりやっていこう。筋トレは小さい成功の積み重ねだから」

 私はこのちょっと先輩のお姉さんと、ゆっくり成長していく日々が、長く続くことを願っていた。

2/15/2025, 12:34:34 AM