ゆかぽんたす

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自転車の後ろに乗せられて、風を切りながら坂道を下ってゆく。どこに行くの?という私の問いかけに彼は叫べるとこだよと元気よく答えた。
数十分前、私は教室で1人で泣いていた。そうしたらいきなりドアが開いて彼が入ってきた。辞書を取りにきたらしい。今まで彼と話したことは片手で数えるほどしかなかった。タイミングがなかったからだと思う。彼はいつもクラスの中心にいて、沢山の友達と賑やかに過ごしていた。笑いが絶えなくて、その周りの人たちも常に笑っていて。悩みなんかなさそうだった。私みたいにつまらないことでいつまでも頭を悩ませているような人じゃないということは見ていてなんとなく分かった。
その彼が、私の涙を見ると、突然手を引き教室を飛び出した。言われるがまま初めての“ニケツ”を促され、彼の自転車に運ばれる。外は今日も快晴で夏らしい空をしていた。これから行く所は叫べる所らしい。私がただなんとなく、大声を出したいだなんて呟いたから。彼はその願いを叶えるために自転車を走らせてくれる。だんだんと風が海のそばのそれに変わってきた。見えてくる青い絨毯。太陽に反射してきらきらして見える。とても綺麗だなと思ったら、それがそのまま口から出ていた。
「きれー!」
「って、ちょい!まだ叫ぶの早いって!」
「だって綺麗なんだもん!」
海も空も優しい青い色をしている。私達の制服の紺色よりも鮮やか。けれどどこか優雅な青。本当に、この青色を見つめて叫んだらとっても気持ちよさそう。私のちっぽけな悩みなんて、海の中に呑み込まれてしまえ。
「もっと飛ばして!」
掴まっている彼の肩を軽く叩く。スピードがぐんと上がった。全然怖くはない。むしろとってもいい感じ。海についたらなんて叫ぼうか。まずは彼に向けてのありがとうを大きな声で叫びたいな。


(……after 8/14)

8/23/2023, 12:57:39 PM