俺にはある友人がいる。絵の上手い奴で、県のコンクールで何度か入賞を果たすような実力者だ。
さて、そんな彼だが、人物画を描かせると、決まって逆光で描くのである。ポーズは振り向きざまだったり、ただ単にこちらを向いていたり様々。それでも、光の当たる向きだけは、絶対に逆光だった。もっと言うと、主に描くモデルも同じ人物。
勿論、描くモチーフの決まっている人物画なら、彼はそれに従う。美術の授業での提出課題だとか、展示するために依頼されたポスターだとか、そういうの。それらは、一般的な光源の向きで、頼まれた通りの人物で描ける。つまり、彼は決して、逆光の、決まった人物しか描けないわけでは無い。
ふとその事が気になった俺は、暇つぶしも兼ねて少し探ってみる事にした。友人なのだから直接聞いてみればいいのだが、最近見た刑事ドラマの影響で捜査という概念に憧れていたのでそれはしなかった。
まず、誰を描いているのか。それから調べてみた。普段風景画ばかり描いている、彼が依頼でなく、個人的に人物画を描くのはそこそこ珍しい。よって、それなりに捜査は難航した。
何枚かの絵をようやく見られて、分かったこと。モデルはどうやら男性で、暗い色の短髪。がっちりとまではいかずとも、それなりに筋肉質な体格。そのくらいである。正直、逆光のせいであまり表情なんかの詳細は見られないし、わざとなのか顔立ちはややぼかされている。モデルが誰か、全く特定できなかった。
しばらくはそうやって地味な調査もどきを続けたが、短気な俺はやがて面倒になって、半ばヤケクソで友人に聞いた。
「なぁ、これ誰描いてんの?いつも同じ奴描いてるだろ。ずっと逆光だし。」
俺がそう聞くと、彼はぱちりと目を瞬かせ、それからにまりと笑んだ。
「なんだ、もう気付いてるかと思ったのに。最近なんかずっと見てたし。」
まさか調査がバレているとは思っていなかったので、今度はこっちが面食らった。
「え、バレてたのか。……で、誰なんだよ、それ?」
「これ君だよ。僕らが初めて会った時の君が、あんまりに眩しくて綺麗だったから。それしか描きたくなくなっちゃった。」
今度こそ絶句して言葉を失った俺は、じわじわと上がってくる顔の熱を隠す方法を、どうにか考えていた。
翌日からのことだった。彼が珍しく、逆光でない人物画を描いた。
夕陽に染まって、かつきっとそれだけでない頬の赤みを湛えた、紛れもない、真正面からの俺の肖像を。
テーマ:逆光
1/25/2026, 7:26:29 AM