あなたの腕の中はいつも違う香りがする
綿あめのような安っぽい香水の匂いを
疎ましく思いつつも、
この薄っぺらい胸に体重を預けているのは
柔らかな胸ごしに伝わってくる
時に大きく跳ねる心音に安心するからだ
昨晩、この不整脈を独り占めした女は
よほど自己顕示欲が強いのだろう
甘ったるい綿あめのにおいが素肌にまで染み付いているのではないかと疑うほど強く香っている
私はどうしてこんな人間のことが好きなんだろう
気安く肌を触れ合わせるくせに、
自分の心は少しも見せないところだろうか
時折三日月のような目を浮かべて懐いてきたと思えば
氷のように冷たい黒目が私を突き刺すところだろうか
再び心音が大きく跳ねる
私は安心と、
それをはるかに覆い尽くすような不安に襲われた
この人の胸は何故なしに安心する
初めて抱きしめられた時からそうだった
理屈ではない、病みつきになる心地良さだった
でもおそらく、
私と同じことを感じている人間は私の他にも沢山いる
そしてこの人にとって私は
その大多数の1人に過ぎないのだろう
細長くて綺麗な指が私の髪を優しく梳かす
綿あめの匂いの女にも
同じことをしたであろう慣れた手つきで
そうだ
私はこの人間でなく
この不整脈持ちとのコミュニケーションに付き纏う
安心と不安に魅了されているのかもしれない
うん、
きっとそうだ
こんなに大好きなのは私だけじゃない、
これは苦しい片思いなんかじゃないと
嫉妬で狂いそうになる頭に必死に言い聞かせた
1/26/2023, 2:47:54 AM