仮色

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【泣かないで】

泣かないで。ぐっと堪えて。唇を噛んで。
この姿は見せたらいけない。
だってそれは皆んなの〝わたし〟じゃないから。


ーーー


骨に染みるような寒さの日。びゅうびゅうと風が遠慮なく体当たりしてくる。

がちで寒い。そうだね。

そんな会話も今日のうちで何回か行われた。
学校終わりで一緒に帰っている親友も、マフラーに顔の半分を埋めている。

「私もマフラー持ってきたらよかった…」

思わずそんな言葉が口から出てくる。
だね、と寒がりな親友は短く返事を返してくれた。
なんとなくちらりと横を見ると、マフラーをしても尚自分より寒そうにしている彼女。かなり厚着なはずなのに、寒そうなその姿がなんだか可笑しくて口角が上がる。

「もっこもこなマフラー、プレゼントしてあげようか?」

吹き付けてくる風に、隠せていない耳を赤くしているのを見かねて言った。
前を向いていた目線が自分に注がれる。
真正面から見た、隠れていない上半分の顔を眺めて、ん?と思った。

「…耳当てがいい」
「んふふ、それが良い。サービスでカイロもくれてやろう」
「あんがと」

なんの違和感もなく続けられた会話に、一瞬気のせいかなと思う。
…思うが、一回気付いたことは結構頭に居座るものだ。
一瞬騙されかけたが、多分。気のせいではないんだろうな。

「今日うちで映画とか見ない?」
「…急やね」
「今思ったもんだから」

別にいいけども、と地面に視線を落としながらの了承が出る。
こつ、と足元にあったらしい小石が蹴られてどこかに消えた。

「あれだな、感動系の映画見よう。部屋あったかくして」
「感動系…それまたなんで。部屋あったかいのは有り難いけど」
「んー………

 泣きたい気分でしょ。今日は」


ね?と彼女の方を見ると、下をぼんやりと見つめていた顔が、なんとも微妙な表情に変わってこっちに向いた。
こっちの含みに目ざとく気が付いたらしい。鋭いものだ。

「…さいですか」
「うん。あ、あとこれはとんでもなく大きな独り言なんだけど、」

親友舐めんなよ?


明後日の方向を向いてまあまあな大きな声で、まるで聞かせるような感じで言った言葉。

少々経ってから「…独り言大きすぎるでしょ」という小さな声と、ぐす、と寒さからなのか何なのか、鼻を鳴らす音が聞こえた。

ーーー

泣いてくれ。声を出して。涙を流して。
私にだけでいい。その姿を見せて。
だってそれも〝あなた〟の一部なんだから。

11/30/2023, 1:25:11 PM