セイ

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【相合傘】

時刻は深夜2時。
やっとの思いで仕事を片付け、階段を駆け下りてビルを出ると外は大雨。

「嘘でしょ…」

予報にはなかった大雨に絶望しながらもゴソゴソと鞄を漁る。
…が、ない。
入れていた筈の折り畳み傘がなかった。
昨日荷物の入れ替えをしていたからそれで家に置いてきてしまったようだ。

仕方ないかと家でネトゲをしているであろう同居人に電話を掛ける。

「おっ、仕事終わった?遅くまでお疲れ様」
「ありがとう。あのさ、悪いんだけど傘忘れたから迎え来てくれない?」
「あー…わかった。今から迎え行くから15分だけ待っててくれる?」
「ん、待ってる」

―――15分後。

同居人からの『今着いた』というLINE。
顔を上げると遠くから人影が近づいているのが見えた。
星が散りばめられた大きな青い傘。同居人が自分で作ったオリジナルの傘。

「お疲れ、待った?」
「あれ?あたしの分の傘は?」
「え?ないけど?」
「は?」
 
数秒の沈黙。
ちょっとピリピリする雰囲気を壊したのは同居人だった。

「ほーら、入りなよ。風邪引いちゃうよ?」
「この年にもなって相合傘って…」
「まぁまぁ、偶には良いでしょ?そういう気分だったの」

悪戯っ子のように嘲笑う同居人。
無駄に顔が良いから怒るに怒れなくなる。

「…まぁいいけど」
やっぱ勝てないなぁ…と思いながらあたしは大人しく傘にスッと収まった。

6/19/2024, 7:58:41 PM