はた織

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 部屋の角には私の幽霊がいて、幽霊がただ佇む場所であって、そんな場所には昏い影が必要で、影さえも潰そうと無闇やたらに荷物を置いて、幽霊の居場所さえも消そうとする人間の方が怖いなと、深夜2時のホテルの廊下の真ん中で泣き喚く女の声が響いて、自身の幽霊の居場所が見つからず迷子になっている。
 9階建てのホテルの270部屋の中の1080の角がある全ての部屋の片隅で幽霊が静かに泣けずにいるから、女は一本の廊下を感情のままに延々と走り回っている。
 小泉八雲は、生まれ故郷を離れて旅をしない者は自身のゴーストと出会わない人生を送るだろうと嘆いていたが、この女こそその対象なのだろう。
 部屋の片隅にいる私の幽霊は、また焼津に行って今日の繰り返しをしたいとワガママを言ってきた。
 私はまたいつかねと幽霊を頭の隅に置いて、女の慟哭を子守唄に悪夢を共に享受した。
              (241207 部屋の片隅で)

12/7/2024, 1:36:37 PM