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 新しいアイシャドウを手にまぶたに色をのせては落としてを繰り返している。パレット数が多く自分の顔をキャンバスに見立ててあれこれ組み合わせの研究をするのが思ってたより楽しい。パッケージデザインもさることながら気分を上げる一役を担っていた。

「見ない色だね」
 一番綺麗な、満足のいくグラデーションを完成させて、ソファで寛ぐ彼に。細かい所にも気付く彼にはアイシャドウの変化も逃すことなく拾ってくれる。
「限定パッケージが凝ってて、アイシャドウの色も気になったから思わず買っちゃった」
「良いと思うよ。よく見せて」
 と言われたからアイシャドウのケースを差し出そうとして「そうじゃないよ」と顔の輪郭に片手が添わされた。そのままじっくり彼の視線を受けることに
「そんなに『見つめられると』穴が空きそう…」
「それは困るな」
 声色は全く困っていないし面白そうと言った感じ。涙袋を指の腹で撫でられれば異物が入らないかと反射的にまぶたが落ちる。すり、と親指にまつげまでなでられてこしょばゆい。
「手を加えてもいいかな?」
「うん、練習だし、いい組み合わせが思い付いたなら試していいよ」 
 ケースを渡して彼が何の色をのせてくれるのかワクワクした。撫でられていた部分と同じ箇所に滑るような感覚がして
「上出来だ」
 目を開けて見せてくれた鏡の私には目尻に朱色のラインが増えていた。アクセントにぴったりの綺麗な縁取り。

「このまま出掛けるための魔除けだよ。そのメイクに似合う服を探しに行こう!」
「今から!?」
 あまりに唐突な提案に驚いてしまう私に
「駄目かな…?」
 と『見つめられると』。彼に弱い私はただ、ただ頷くしかなかった。


3/28/2023, 11:55:49 PM