なぽりたん。

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 #1「落火」


夏の夜を見ている。
そろそろ終わるこの夏を、少しでも、また思い出せるように。何もなかった、なんて記憶を残さないように。

波の音、防波堤の上。一人。澄んだ黒い夜に、ただ一つ、何か上がるのが見えた。自然のものとも、人工のものとも思えない。この闇に到底似つかないような何かが、一つ、遠く静かに上ってゆく。それを目で追う。温い風を感じる。


──その瞬間、それは大きな光に変わった。大きな、火の花に変わった。灰の雲を吹き飛ばして、辺の闇夜を照らして、星が見えなくなって、波の形が見えて、眩しい。

花の中心から、何本にも延びた光の線が、少しして曲線に変わって、次第に爛れてゆく。
綺麗な円から少し汚くなったそれは、一つ、大きな音を立てた。ああ、空気が止まる。
その美しさにどうも合わない、爆発、とでもいうような、鼓膜を破りそうな音。波の音を掻き消す音。それを煩いとさえ思う。

もう咲いたときとは大違いで、テキトーに、不格好に散ってゆく光の点が、一つ、また一つ、また、一つ、闇に淡く馴染んで消える。

静かになった夜に、雲とは違う、白く棚引くのが見えて、僕は溜息を吐く。


澄んだ黒い夜に、ただ一つ、何か落ちていく。
それがあの火の花の最期だと気づくのに、しばらく、躊躇ってしまった。


                お題:落ちていく

11/24/2023, 8:11:54 AM