【空に溶ける】
シャボン玉は、風のくしゃみにのって飛んでいった。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ。
空にとけて、かすかに音がした。
「ねえ、あれはどこへいくの?」
そうきくと、となりの子は笑った。
ふわふわ、とわらった。
「おかあさんの声のところ」
「うたの中の、まだおぼえてないところ」
「わたしのお兄ちゃんの、いなくなった場所」
シャボン玉は、ひとつも泣かなかった。
ただ、きらきらして、しんとして、
ぜんぶぜんぶ、なにもかも、うつして、
ぱちん、って、いなくなった。
雲のあいだから、ぱっぱっぱと音がした。
それが笑ったのか、さよならしたのか、
わたしには、まだわからない。
5/20/2025, 11:15:21 AM