眠れないほど
乳児には、眠ってまた起きる、という概念や経験がないため寝ぐずりするらしい。眠りに落ちるとき、これで目の前にいる人たちとの別れだと思ってしまう。なにか大きな力で、瞼が重くなってきて、どうしても目を開いていられない。大好きなママやパパと、もう会えないかも知れない!と思ったら、悲しくなるよね。
さて、東日本大震災のとき、放射能流出と騒がれたいわき市に住んでいた弟夫婦から、まだ3歳だった甥を預かった。祖母である私の実母と一緒だからか、特に困らせることなく、淡々と普通に生活していた。
でもそんなある日、弟夫婦が甥に会いに来た。それはそれは喜んではしゃぐ姿を見て、やはり寂しかったんだなと、胸を突かれた。
一晩泊まった次の日、お昼寝をさせたら寝ている間に帰ると、大人たちは打ち合わせていた。いつも通りが良いだろうと、母が連れて行って寝かしつけようとしたが、これがなかなか眠りにつかない。興奮と、せっかく会ったパパとママが帰ってしまうのではないかという心配があったと思う。それは、眠れないほど辛いことだったのだ。
眠りの概念と経験が邪魔したことになる。結局、いつも昼寝しているので、粘って粘って3時間で撃沈した。その間に弟夫婦は帰ったのだが、2人とも帰りの車の中で号泣したそうだ。久しぶりに会った息子とまた別れなければならなかったのだから、そうだろう。
そんなふうに眠りについたが、甥は目覚めるとぐずることはなく、「パパとママは?」「うん、お仕事に行ったけど、また来るって」
その意味は分かったのだろうに、賢い子だから、また淡々と日常生活に戻った。
戻ったのがまた切なく愛しく、あの3ヶ月間は私にとっても複雑な思い出になった。
12/6/2024, 3:50:18 AM