鶴づれ

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子供のように


「ねえ、お母さん。今日、実家帰ってもいい?」
 一人暮らしのアパートで、スマホを耳に当ててベッドにダイブする。どすん、とベッドが鳴る音が聞こえたらしく、お母さんはくすくす笑った。
「帰ってくるのは構わないけど、あなた、かなり疲れてるのね。こっちまで一人で来れる?」
「電車には乗れると思うけど…。駅から歩くのやだなぁ」
 大学生にもなってみっともない。そんなことを言われそうな態度だが、お母さんは全く気にせずに続ける。
「なぁに、そんなに疲れるようなことしたの?」
「…昨日、遅くまでバイトして、今日は講義受けてからずっとレポート書いてた」
 大きめのため息をつくと、またスマホからお母さんのくすくす笑う声が聞こえた。
「あーらまぁ。しょうがないわね。駅まで車で迎えに行ってあげましょう」
「ありがとう、お母さぁん」
「はいはい。電車乗ったら、連絡ちょうだいね」
 また、くすくすという笑い声を残して電話は切られた。
 重い体に鞭打ってベッドからのそりと起き上がる。スマホと家の鍵だけパーカーのポケットにしまって、家を出た。
 まるで小学生が近所に遊びに行くような感覚で、大人が実家に帰る。まったく、いつまでも子供のままだ。
 でも、それでいい。大学生だろうが、成人済みだろうが、子供のように振る舞えるところがあってもいいじゃないか。

10/13/2023, 3:21:46 PM