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ハッピーエンド__。

誰もが彼を惜しいと言った。
それだけの才能があって、何故世に出ないのか
それだけの技量があって、何故自身で完結するのか
その才能が惜しい、技量が惜しいと言った。

彼はその言葉を気にしている暇はなかった
ただ自身の趣味である絵描き
我が身のまま描きたいものを白いキャンバスに載せ
心を込めてただ一身に紙と向き合う繊細な時間
彼はこの時間を愛してやまない
誰かにこの才能を無駄だと罵られても
勿体ない、意味が無いと神経を疑われても
彼はこの時間を義務に変えることを許さなかった

描きたい時、描きたいままに、描きたい量
筆を走らせ線を描き、色を塗り
気分ではない時筆を休ませる
きっと仕事にしてしまえば楽しくない時間がやってくる
彼は大切なこの時間を
財産、名誉の為に犠牲にするなど考えられなかった

軈て彼は息を引き取った。

一つ、また一つと増やしていった絵を残し
彼は眠りについた
誰もが何度も呟いた
誰の目に触れることなく終わってしまった彼を
そして残された絵を
哀れだと。

けれど彼にとってその時間は
何にも変え難い大切なものとしてそこに存在した
一人好きな時に絵を描き
彼は幸せな時間を堪能した

そんな人生を全うしただ静かに目を閉じる
それこそが彼にとってのハッピーエンドであったのだ。

3/29/2024, 10:03:12 PM