ジェーン・ドゥ

Open App

星空の下で

家を買った。山の上、小さな小さな家を。人気もなく、虫の鳴き声と木々のさざめきだけが満ちる静かな場所だった。町あかりから遠く離れたこの家では、星がよく見えた。晴れた日、窓から空を覗くのが男の習慣だった。
星空、高く遠く。手を伸ばしたところで届きはしない。瞬く光だけが目を眩ませる。
「人は死んだら星になるのよ」
妻の口癖だった。四角く切り取られた白い部屋、横たわる姿ばかりが記憶に残っている。ゆっくりと、しかし止まることなく死は妻に歩み寄っていた。壁に取り付けられたひとつの窓だけが、妻が見ることのできる世界だった。星空を見つめるのは、元は妻の習慣だった。死の間際まで、妻は穏やかだった。男の方が余程怯え震えていた。
「あなた、私は空にいますから。あなたをずっと見ていますから」
今際の言葉だった。それ以来男は、空を眺める。
星空、高く遠く。煌々と輝くそのひとつに、妻がいる。
静かな山の上、今日も探し続けている。ただひたすらに、見つめ続けている。

4/5/2026, 10:46:12 AM