「静寂に包まれた部屋」
午前6時56分。ほの暗い教室に明かりをともす。かじかんだ手をこすりマフラーを脱ぐ。
午前6時59分。そろそろかな、見計らって廊下に出ると左折。すると間もなく、
「福井?おはよう」
背中にかかる声。
「今日も早いなあ。あ日誌なら持ってきたで」
振り返るとその人はもう教室に足を踏み入れていた。
「はよ入り。寒いやろ廊下」
後ろに続いて教室に入ると、その人は「も〜、暖房いれぇな」と操作盤をいじる。
「寒ないん?」
寒いですーー答えると、その人は軽やかな声を立てた。
「真面目やなあ、風邪ひいたらどうするん。公募推薦は来月やろ」
はい、と頷いて席に座る。その人は、もっとサボりやあなんて笑いながら黒板に連絡事項を書いていった。
少ししてチョークを置き、ごみ箱の上で手をはたく。
「ほなな、1時間目なったらまた来るわ。勉強ほどほどに頑張って」
午前7時13分。その革靴で早足で去っていく音に耳を立てる。
午前7時20分に他の生徒が登校してくるまで、うす明るくなった教室の静寂と共に余韻に浸っている。
『彼女と先生』
9/29/2024, 1:57:06 PM