わをん

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『鏡』

永遠の若さと美しさを追い求めた結果、人を捨てて人ではないものに成った。夜の社交場にも以前と変わりなく出られると思っていたけれど、由々しき問題のためにそうはいかなくなった。
その問題とは鏡を覗いても自分の姿が映らないこと。自分の身ひとつでは身だしなみを整えることすらできなくなった私は、仕方なくしもべを増やして髪を整える係を命じてみた。鏡に映らない以上自分だけでは判別がつかないけれど、どうやら壊滅的な出来栄えだということは手触りだけでわかった。
まずは教育からだ。人よりも知能の劣るしもべたちにセンスが良いとはどういうことかをみっちりと教え込むこと十年ほど。同じ要領で化粧をする係、服を選ぶ係を育て上げるのにさらに十年ほど。夜の社交場での実践を経て、どこに出しても恥ずかしくないしもべを育て上げられるようになった。
この数十年の間に美しさへの探究よりも育て上げることの喜びに目覚めた私は美容学校を起ち上げ、しもべのみならず普通の人に対しても広く門戸を開いた。
あれから何年が経っただろうか。今年も新入生達の前に現れ、年齢不詳の学園長としてどよめいた場の挨拶を締めくくる。
「鏡に映る美しさはもちろん、鏡に映らない美しさまでもを表すのです」

8/19/2024, 6:27:57 AM