"半袖"
「こんなもんか。……はい、終わったぞー」
念入りなタオルドライの後、軽くドライヤーの温風をかけて仕上げてハナを解放する。
完全に乾いたハナの体毛は、シャンプーしたおかげで入浴前よりもすっきりした印象で、ドライヤーの温風でふわふわに仕上がっている。
「みゃあん」
顔を近付けると、猫用シャンプーの良い匂いが鼻腔をくすぐる。
しばし体毛を嗅いでいると、くすぐったいのか身体をよじり始める。
「大きくなっても、変わらねぇな……」
ハナを拾い上げた時の事を思い出す。あの時のハナは本当に小さく、片手にすっぽり収まるくらい小さくて、今よりも鳴き声が高かった。
だが、体毛の柔らかさはあの時と全然変わらない。暖かくて、柔らかくて、ふわふわ。
物思いに浸っていると、ハナが急に口角付近を舐めてきた。
「うおっ。や、やめぇ。……ふひひ」
舌のザラザラとした感触に、思わず笑いが零れる。
やめろ、と笑いながら離す。
「そういや、そろそろ半袖出すか……」
──猫に換毛期が来たなら、近々自分の衣替えをしなくては。
そんな事を考えながら、ハナを腕に抱えたまま居室に戻った。
5/28/2024, 11:28:23 AM