はす

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やさしい雨音

雨は嫌いだ。服は濡れるし、じめじめするし、湿気が多くて、どことなく気持ち悪い。それなのに、さっきまで晴れていた空には、どんよりとした雲が覆い被さって、あっという間に雨模様となってしまった。明日は出かけようか、と昨日君と話していたはずなのに、今は二人で窓際のテーブルに座って雨を眺めている。
「結構降ってるわねえ」
「何で降るかなあ。出かけたかったのに」
「いいじゃない、雨は好きよ私」
「なんで?」
君は僕の問いには答えず、ただ静かに外を見ていた。
「ほら、聞こえるでしょう」
「?」
「雨の音。ちゃんと聞くと、結構面白いのよ。地面がアスファルトだったら硬い音がするし、水辺だったら水が跳ねる音がする。トタン屋根だったら、すごくうるさい」
へえ、と相槌を打った。確かに、雨の音なんて気にしたこともなかった。
「ああ、でも傘に落ちる雨の音は好きだな。聞いてると楽しくなる」
「ええ」
「あと、雨の匂いも好きだ。独特な匂いだけど」
考えてみると、雨も意外と悪くないな、なんて。
君は嬉しそうな顔で、笑っていた。
「嫌って思うより、好きだな、って思うことを見つけた方が、きっと楽よ」
うん、と頷いて、窓の外を眺めた。庭は土の地面で、三本の木と、いくつか低木も植えている。
耳を澄ますと、天から降り注ぐ水が地面に染み込んでいく様な、やさしい雨音がした。

5/25/2025, 10:43:10 AM