かたいなか

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元物書き乙女、現概念アクセサリー職人たる彼女は、新たな概念雑貨の製作に集中していた。

長方形の小さなフィナンシェ型に、無色透明な光硬化レジン液を薄く流す。
LEDライトに突っ込み硬化をよくよく確認してから、上半分に黒のジェルネイルを、下半分に白のそれを。それぞれ二度塗りして、ネイルシールで飾り付けた。
長方形の短辺に、それより少し長めの金具、ゴールドの直パイプを、瞬間接着剤でくっつけた後、
パイプの穴を同色のメタルビーズと小さなラインストーンで隠して、上部に丸カンとカニカンを付ければ、巻き物風黒白概念チャームの出来上がり。
「できた」
満足のいくデザインに、よく仕上がったのだろう。
乙女は数度、深く頷き、写真を撮って己の呟きアカウントに投稿した。

『黒✕白巻き物チャームできた!別に誰と誰って決めてないけど誰誰に見える?(丸投げ)』

投稿内容は半分事実で、半分嘘を仕込んでいた。
誰をイメージした小物であるかを、物書き乙女はたしかに決めていた。
かつて薔薇物語作家であった頃の推しCP。「鶴」の略称で呼ばれる主従カプである。
乙女は彼等を思いながら、心を込め、まさしくその2名に相応しいように、色を決めシールを選んだ。
コスパや採算は無論度外視である。
CP非公表は二次創作界隈の解釈論争に疲れたため。
己の自由に想像した主従嗜好にいちいち外野から「解釈違い」「公式乖離」と口出しされては疲弊もする。

誰でもなければ指摘も来ない。
相手に勝手に想像させれば解釈相違も起こらない。
好きと好き、嗜好と嗜好の殴り合いに疲れた彼女の、これはいわば唯一の打開策であった。

『絶対雛✕蛇!』
『スラスラにも見える』
リプ欄は1時間程度で、乙女の意図せぬ各々の御解釈が、製作者の心から遠く離れた組み合わせが並ぶ。
「どうぞどうぞ。ご勝手に」
私はなーんにも、指摘しませんので。ため息に独り言を溶かすばかりであったが、

『鶴の黒白主従説』

画像投稿から数時間経った頃、フォロワーのひとりからひとつ、解釈の完全に一致したリプライが、短く投稿されて乙女を飛び上がらせた。

3/28/2023, 9:50:52 AM