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僕と一緒に

「僕と一緒に踊りませんか?」
王子が私の前でそう跪いて言う。普通の人間なら飛んで喜ぶこの状況に、私は疑問を抱いていた。
一国の王子が、貴族といえども自分より下の身分の者に頭を下げていいものなのかしら。
せめて意中の相手……いいえ、婚約相手ではないと。我が国の王子は単純だ、なんて噂されたらどうするんでしょう。
そう疑問に思う私の前で、王子は焦れったそうに差し出した手を更に伸ばす。近くになった王子の手には、お坊ちゃんらしく傷1つない。
私も大概だけど、それ以上に甘やかされてきたのが手に取るように分かる。そう感じながら、私はようやく口を開いた。
「ごめんなさい、今日は召使いと来ていて、その子の相手役を務めなきゃいけないんですの……私も踊りたかったのに、申し訳ないですわ、王子様」
王子の誘いを断りながらも面は立てる。貴族としてこれからもやっていくには、そうするしかない。
王子も断れられた事に不満は感じつつも、それなら仕方ないと身を引いてくれる。良かったわ、相手役にと他の召使を出されなくて。
王子と踊るなんてそうそう無い素敵な機会、しかも王子自ら誘ってくれるなんて、かなり好意を持たれているのは明白でしょう。
それでも私は断るの。……王子が離れて、代わりに私の召使いが傍に駆け寄ってくる。王子様のお誘い断ってよかったんですかと慌てた声を出している。
それを聞きながら、私は心の中で呟く。あのね、務めなきゃいけない、なんて本意じゃない言い方をしたけれど。違うのよ。
――貴女と踊りたいのよ、私だけのプリンセス。

9/23/2025, 12:45:14 PM