たった1つの希望
扉の向こうはどこまでも灰色だった。ひび割れて乾いた地面に単調な凹凸が広がっていて、時折吹く風は何にも触れずに通り過ぎていく。
「アルト、ソプラノ。こちらへ」
「はい」
「ん」
男に呼ばれた2人の子供が扉の前に立つ。銀色の髪に黄色い目をした女の子──ソプラノという──は大きな鞄に白いワンピースを、もう1人は──この子がアルトだ──リュックサックを背負ってつばの広い帽子をかぶっている。
「さて。最終局面となったわけだが」
男が偉そうに腕を組んで2人に話し出す。
「君たちにはこれから、この保護地区を出て外へ行ってもらう。そこで──」
「わかってるよ。ぼくたちが、世界が枯れている原因を見つけてくればいい」
「そうだ。尤も、私の言葉を盗ることは感心しないがね」
「プレストが同じことを何回も言うからよ」
「君たち!」
咎めるように男──プレストが一括すれば、アルトとソプラノはしゅんとして姿勢を正した。
「君たちにこんなことをさせるのは心苦しい。だが、2人に適性があったのは我々にとって大変喜ばしいことでもあった」
大袈裟に抑揚をつけながらプレストが続ける。
「本来ならば盛大に送り出してやりたいところだが、生憎人員不足でね。ささやかになってしまったことをお詫びしよう」
地上の生命が枯渇してから30年、開けられることのなかった扉に手がかけられる。
「さぁ、行ってらっしゃい希望たち!」
その言葉と同時に、灰色の世界へ白と黒が足を踏み入れた。
2人の背後で重い扉が閉まる。希望という名のプロジェクトが幕を開けた。
「ねぇ、ソプラノ。ぼくたち、これからどこにいけばいいのかな」
「そうね……ひとまず、羅針盤の指す方に向かいましょ」
小さな二人分の足音が灰色の凹凸にこだまする。
世界再生プロジェクトと称した無謀な冒険は、ここから始まった。
3/3/2026, 3:38:46 AM