ぽたぽたと頬を伝って紙に落ちていくものはなんだろう。じんわりと広がって、インクが滲む。
「あれ?」
なんでだろう。止まることなく紙に染み込んでいく。少しひんやりとした乾燥した右手を目尻に触れる。ああ、泣いてるんだ。もう何十年もご無沙汰だった。こんな感じだったか。
手紙なんて書くもんじゃないな。自分に正直になってしまう。自覚してなかった感情までもが赤裸々になっていく。明らかになった自分の気持ちに納得すると同時に、知らなければ良かった、と思ってしまう。
ああ、結婚おめでとうって書かないと。新しい紙に書き直さないと。
本当はずっと好きだったって、あの時の約束を私だけはずっと覚えてたって、迎えにきてくれるのを待ってたって、そんなことここに書いちゃいけない。
ただ、招待してくれてありがとう。結婚おめでとうって。
昔からそうだった。
私の話なんてちっとも聞いてない。話をして満足して、数日後に同じ話をしてくる。もう聞いたよって言ってもそうだっけ、って。なのに、頼るときは必ず私だけに聞いてきて、他の人の前で私たちはちょっと特別な関係だって匂わせて。他の人には伝わらない話を振ってきて。
幼稚園の時の約束は無効なんて言わないでほしい。大学まで私たちずっと一緒だったのに。合格発表の瞬間も一緒に過ごしたのに。
きっと一瞬たりとも、あの人の特別にはなれても一番ではなかったんだ。
ああ悔しい。誰かの一番になりたい。
6/3/2025, 11:21:22 AM