春爛漫
(…には程遠いんだよなぁコンチクショー)
仕事からの帰路に付きながら、女が無言で歩いてた。
一見は静かだが、頭の中は罵詈雑言でいっぱいだった。
(北海道じゃ桜どころか梅もまだ咲かない。
同時に咲くのが良い、なんて言うけど、あれは寒い冬空にちょっとずつ咲くのがオツなんじゃないか。
生暖かい空気の中で派手に開花している様は好きじゃない。完全に好みの話だけども)
(生暖かい、といえば今日も鼻水が止まらなかった。花粉症じゃないけど、寒暖差アレルギーがひどい。
そもそも冬の寒さにやっと慣れた頃にぶわっと温い空気が来るんだからそりゃ身体も追いつかんわ。
いや、ずっと寒いのも嫌だけど)
(暖かくなれば虫が来るよなぁ。冬の長所は虫がいないことだよな。花は好きだけど虫は嫌い。特にカマドウマ。
スズメバチも年々増えてる気がするし、今年こそ網戸買お)
(あー春嫌い。バレンタインからホワイトデーまで忙しないし卒業入学には縁無いしであっっっという間に雪溶けてるあのスピードが嫌。うっかり一年の4分の1終わってるし。あと半月でゴールデンウィークとか嘘だろ。休みは早く来いって思うけどさ)
こんな感じで歩いてた女は、ふと、足を止めた。
やけに明るい。
(あ、今日満月か)
天を見上げる。
普段より低い月が大きく、色は金にも橙にも見える。発光のせいか夜の闇が薄く感じた。
冬の間の重たく深い色をした黒とは違う、優しく、ふわりと感じる夜だ。
(春は嫌いだけど……春の月は好きだなぁ)
春の月は春霞ともいう。
空気中の水分が霧や霞を発生させ、月を朧に感じさせると。
何かの本で読んだ。
(まぁごちゃごちゃ言っても思っても、どうせ春は巡って来るんだ)
だったら、好きなものを一つでも見つけて。
せいぜい、楽しむしかない。
(毎年、同じ結論出して………結局は変わらない自分が嫌なだけなんだよな)
女はがしがしと、頭をかいた。
春爛漫とは、花や命の勢いが満ち溢れていることを指す。
この女の愚痴も春への抵抗も、命の勢いの一つである。
4/10/2026, 2:53:56 PM